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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)229号 判決 1989年7月11日

原告 武田薬品工業株式会社

右代表者代表取締役 梅本純正

右訴訟代理人弁理士 福田雅美

同 浅井八寿夫

被告 早見ヨイ

<ほか七名>

主文

特許庁が昭和四〇年審判第五三三二号事件について昭和六二年一〇月一五日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者が求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告ら

被告早見一宇は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

その余の被告らは、適式の呼出しを受けながら本件弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面の提出もしない。

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙第二のとおり「MINEFEED」のローマ字八文字及び「ミネフィード」の片仮名六文字を二段に横書きして成り、旧第一類「化学品、薬剤及医療補助品」を指定商品とする登録第五二六三一一号商標(昭和三二年一二月一一日登録出願、昭和三三年八月二九日設定登録、昭和五三年九月一日存続期間の更新登録。以下「引用商標」という。)の商標権者である。

被告らの被相続人早見喜一郎は、別紙第一のとおり「ミネフード」の片仮名五文字、「みねふーど」の平仮名五文字及び「MINEFOOD」のローマ字八文字を三段に横書きして成り、旧第七〇類(他類ニ属セサル商品(糊料、他類に属せざる家畜及び家禽の合成飼料ほか六七品目)」を指定商品とする登録第五六四七〇九号商標(昭和三三年三月二八日登録出願、昭和三六年一月二〇日設定登録、昭和五六年九月三〇日存続期間の更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であったが、原告は、昭和四〇年八月九日、商標法第五三条第一項の規定に基づき、早見喜一郎を被請求人として本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求し(昭和四〇年九月三〇日審判の予告登録)、昭和四〇年審判第五三三二号事件として審理された結果、昭和六二年一〇月一五日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同月二九日原告に送達された。

なお、早見喜一郎は昭和六一年五月三日死亡し、被告らがその権利義務を相続承継したものである。

二  審決の理由の要点

1  本件商標の構成及び指定商品は前記のとおりである。

2  請求人(以下「原告」という。)は、本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求し、その理由として、

原告が引用商標をその指定商品について現実に使用している飼料添加ミネラル剤(以下「原告商品」という。)は、取引者ないし需要者に周知のものである。しかるに、本件商標の被使用許諾者である三宝ミネフード工業株式会社(東京都新宿区市谷田町一丁目四番地所在)は、引用商標の存在を承知しながら、本件商標を、その指定商品(旧第七〇類)に属する商品でなく、引用商標の指定商品(旧第一類)に属する商品(以下「三宝ミネフード工業の商品」という。)に使用している。すなわち、三宝ミネフード工業の商品は、Cao,S1O2など一七種のミネラル(合計七〇・八一%)と腐蝕質等とから成り、そのまま飼料として使用されるのではなく、例えば雛あるいは成鶏に対して飼料に二~四%(重量%)添加して与えるのであるから、本件商標の指定商品(旧第七〇類)には属さず、引用商標の指定商品(旧第一類)に属する、原告商品と同種の商品である。のみならず、この種商品は二〇kg又は三〇kgの大きな袋詰とするのが通例であるから、原告商品と三宝ミネフード工業の商品とは、包装も相似たものである。そして、両商標は、四音中の中間音(「フィ」と「フ」)において相違するにすぎない紛らわしいものであるから、右のような本件商標の使用によって、原告商品と三宝ミネフード工業の商品との混同を生ずることは必至である。よって、本件商標の登録は、商標法第五三条第一項の規定に基づいて、取り消されるべきものであると主張した。

3  被請求人(被告らの被相続人早見喜一郎)は、

三宝ミネフード工業の商品は、本件商標の指定商品(旧第七〇類)の「他類に属せざる家畜及び家禽の合成飼料」であって、引用商標の指定商品(旧第一類)とは非類似商品である。のみならず、本件商標は引用商標に類似しない商標である

と主張した。

4  そこで判断するに、商標法第五三条は、商標権者から使用許諾を受けた専用使用権者又は通常使用権者が、指定商品又はこれに類似する商品について、登録商標又はこれに類似する商標を不当に使用して需要者に商品の品質の誤認や商品の出所の混同を生じさせた場合における制裁規定と解される。

ところで、原告は、三宝ミネフード工業の商品は、本件商標の指定商品ではなく薬剤に属する商品(飼料添加剤)であると主張するが、原告の主張をそのまま認めることはできないばかりでなく、三宝ミネフード工業の商品は飼料としても使用し得るものと認めることができる。

また、三宝ミネフード工業の商品に現実に使用されている商標は、本件商標に類似する商標であるとしても、その使用方法は、本件商標を不当に変更して使用しているものとは認められない。

したがって、被使用許諾者による本件商標の使用は、本件商標の使用許諾に基づきその指定商品について使用しているものであって、正当な権利の行使であると認めざるを得ないから、本件商標の登録は、商標法第五三条第一項によって取り消すべきものではない。

三  審決の取消事由

審決は、商標法第五三条第一項の規定の趣旨を誤解した結果、本件商標は同条項の規定に基づいて取り消すべきものではないと誤って判断したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

1  審決は、商標法第五三条は商標を不当に使用した場合の制裁規定であるとしているが、誤りである。

すなわち、同条第一項は、同法第五一条のように故意を要件としていないし、登録商標をその指定商品に使用する場合において客観的に誤認混同を生ずる行為があれば商標登録を取り消す旨を規定しているのであるから、被使用許諾者による本件商標の使用が正当な権利行使であるか不当使用であるかによって、その適用が左右されるものではない。

2  三宝ミネフード工業の商品は飼料の一素材として使用し得るものであるが、鶏にミネラルを補給する目的で飼料に対して二ないし四%の微量を添加するにすぎない。したがって、三宝ミネフード工業の商品は、引用商標の指定商品(旧第一類)の「薬剤」にも該当し、原告商品と取引者ないし需要者を共通にすることが少なくないものであって、明らかに原告商品と競合関係にある商品である。

そして、三宝ミネフード工業の商品に使用されている商標は「ミネフード」の片仮名五文字を横書きして成るものであって、本件商標と同一ではないがそれに類似する商標であることは審決認定のとおりであるから、本件商標の被使用許諾者は、本件商標を変更して使用しているものというべきところ、「ミネフード」の商標が、引用商標と類似の商標であることは明らかである。

以上のとおりであるから、原告商品と競合関係にある三宝ミネフード工業の商品に、本件商標そのままではなく、取引者ないし需要者に周知著名となっている引用商標と極めて紛らわしい「ミネフード」の商標を使用するときは、原告商品との混同を生ずることは免れないところである。

第三被告早見一宇の主張

請求の原因一及び二を認めるが、同三は争う。

第四証拠関係《省略》

理由

一  被告早見一宇を除く被告らは請求原因事実を明らかに争わないが、本件訴訟は、その目的が被告らの全員について合一にのみ確定すべき場合であるところ、被告早見一宇が請求棄却の判決を求め請求の原因の一部を争うので、以下に原告の主張の当否を判断する。

1  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

2  審決は、商標法第五三条の規定は専用使用権者又は通常使用権者(以下「被使用許諾者」という。)が商標を不当に使用した場合の制裁規定と解されるとし、三宝ミネフード工業が本件商標を「不当に変更」して使用しているとは認められないと認定している。

しかしながら、商標法第五三条第一項の規定が、被使用許諾者が登録商標(又はこれに類似する商標)を「指定商品又はこれに類似する商品」に使用する場合において、商品の品質の誤認、あるいは他人の業務に係る商品との混同を生ずるような態様の使用をしたときは商標登録を取り消す旨を規定したものであることは文理上明らかであって、被使用許諾者が登録商標を「不当に変更」して使用した場合にのみ適用されるものと限定する根拠はない。

なお、念のため付言するに、商標法第五三条第一項の規定は、前記のとおり、被使用許諾者による「指定商品又はこれに類似する商品」についての商標の使用を要件としているのであって、被使用許諾者が「指定商品又はこれに類似する商品」に該当しない商品に商標を使用した場合は、同条項の適用はあり得ないのである。

3  本件商標が旧第七〇類、すなわち他類ニ属セサル商品(糊料、他類に属せざる家畜及び家禽の合成飼料ほか六七品目)を指定商品とすることは当事者間に争いがない。

ところで、《証拠省略》によれば、三宝ミネフード工業の商品は、二〇数種のミネラルを総合的に含有するミネラル剤であって合成飼料の栄養分の補給のために合成飼料に対し二ないし四%添加して使用するものと認められるから、本件商標の指定商品である「他類に属せざる家畜及び家禽の合成飼料」そのものとはいえないが、右指定商品に「類似する商品」に該当するというべきである。

また、《証拠省略》によれば、三宝ミネフード工業の商品に使用されている商標は、「ミネフード」の片仮名五文字を横書きして成るものであると認められる。右商標は、別紙第一に示されている三段から成る本件商標と同一ではないが、その一段目と全く同一であって、要するに本件商標と称呼において共通する商標であることはいうまでもない。

4  一方、《証拠省略》によれば、原告商品は飼料用総合ミネラル製剤であって、飼料一トンに対して五〇〇グラム量を添加して使用するものと認められる。

5  以上のとおり、三宝ミネフード工業の商品は、飼料に対し微量を添加して使用するミネラル剤である点において原告商品と用途を同じくする。また、引用商標と三宝ミネフード工業の商品に使用されている商標の各称呼を対比すると、両者はいずれも三音目に長音を交えた四音から成る造語であり、三音目の「フィ」と「フ」の音に微差があるのみで他の対応する三音は全く共通するから、称呼全体として紛らわしく、極めて類似する商標といわねばならない。

したがって、三宝ミネフード工業の商品が、本来三段から成る本件商標から一段目の「ミネフード」の片仮名五文字を横書きして成る部分のみを摘出して使用したことによって、引用商標を使用した原告商品と混同を生ずる結果を生じていることは明らかといわざるを得ない。

6  そうすると、本件商標の登録は、商標法第五三条第一項の規定によって取り消されるべきものであるから、これと判断を異にする審決は違法であって、取消しを免れない。

二  よって審決の違法を理由にその取消しを求める本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 春日民雄 岩田嘉彦)

<以下省略>

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